ライフサイエンス 領域融合レビュー

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腸内細菌と腸管免疫

2013年11月6日

本田 賢也
(理化学研究所統合生命医科学研究センター 消化管恒常性研究チーム)
email:本田賢也

領域融合レビュー, 2, e011 (2013) DOI: 10.7875/leading.author.2.e011
Kenya Honda: The gut microbiota and immune system.

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要 約

 消化管はユニークな免疫系を構築している.そこでは,強い炎症活性をもつ免疫細胞と同時に抑制能の強い免疫細胞がバランスよく生み出されている.これは,消化管がさまざまな微生物の侵入という危険につねにさらされているのと同時に,日常的に接する無害な食物や腸内フローラに対しては不必要に免疫応答しないよう制御される必要があるためである.こうしたバランスよく制御された消化管免疫系の構築において,腸内フローラが重要なはたらきをしていることが徐々に明らかになってきている.腸内フローラを構成する個々の細菌種は,それぞれ異なる様式により消化管免疫系に影響をあたえる.たとえば,セグメント細菌とよばれる消化管に常在する細菌はマウスの小腸の粘膜固有層においてTh17細胞の分化を強力に誘導する.一方で,クロストリジアに属する消化管に常在する細菌は制御性T細胞の数を増加させその機能を高める.そして,腸内フローラの細菌種の構成の異常は免疫の異常へとつながり,さまざまな疾患を誘発する.ここでは,腸内細菌に影響をうけて構築されているユニークな消化管免疫系について紹介する.

はじめに

 消化管の管腔は嫌気性細菌にとりきわめて効率のよいバイオリアクターとして機能しており,1 gあたり1011個のオーダーで嫌気性細菌が存在している.哺乳類の腸管には約1000種あるいはそれ以上の細菌種が宿主と相互作用しつつ増殖しており,これらは全体として腸内フローラとよばれている.最近の次世代シークエンサーを用いた腸内フローラの解析から,炎症性腸疾患,肥満,糖尿病,がん,動脈硬化,自閉症など,ヒトのさまざまな疾患における発症の感受性と,腸内フローラの細菌種の構成の異常とが密接に結びついていることが明らかになってきている.この腸内フローラの細菌種の構成の異常は“dysbiosis”とよばれており,細菌種の数の減少(単純化)や,少ないはずの細菌種の異常な増加,あるいは,通常は優性であるはずの細菌種の減少などをさす1).すなわち,dysbiosisは腸内フローラの全体として保有する遺伝子の数が減少し,“全体として機能的に劣った”細菌の構成というのと同義である.そして,いくつかの疾患に対しdysbiosisの改善がきわめて重要な治療法となりうることが,便の移植の治験などから明らかになりつつある.たとえば,Clostridium difficileとそれによる難治性偽膜性腸炎は顕著なdysbiosisをともなうが,健常者の便の移植がこのdysbiosisを改善し,疾患の治癒において非常に高い効果を発揮したという臨床試験が発表されている2)
 しかし,dysbiosisがなぜ原因として炎症と結びつき,さらに疾患と結びつくのか,その理由は十分には明らかにされていない.その理由のひとつとして想定されているのは,免疫系の恒常性がdysbiosisにより破綻するというものである.すなわち,免疫系を活性化するような細菌種が優位となり,逆に,免疫系を抑制するような細菌が減少しているため,その総体として免疫系の異常な活性化が誘導されるという仮説である.免疫系が食事の成分や腸内細菌など本来は応答してはいけないものに反応し,粘膜のバリア機能の異常と慢性的な炎症がもたらされるのではないかと考えられている(図1).こうした背景にもとづき,個々の腸内細菌種がどのように宿主の免疫系に影響をあたえているのか,還元化したなか個別に把握していこうとする研究が注目されている.すなわち,無菌マウスにある特定の細菌種だけを投与し,その細菌だけが存在するマウスを作製して,その細菌種の単独での影響を調べようとするものである.この方法は古くから確立されていたが,メタゲノム解析あるいはメタリボソーム16S解析を組み合わせることにより,よりパワフルなツールとしてふたたび注目をあつめている.実際にこの方法により,腸内フローラを構成する細菌それぞれが異なるかたちで宿主の免疫細胞の分化や機能に影響をあたえていることが徐々に明らかになってきている.

figure1

1.特徴ある消化管免疫系

 消化管の粘膜は環境と接しており病原性微生物の最大の侵入経路となるため,独自のバリア系が構築されている.たとえば,小腸のクリプト底部の幹細胞領域には,幹細胞を護衛するかのようにPaneth細胞が存在する.Paneth細胞はToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)やNOD受容体(NOD:nucleotide-binding and oligomerization domain)を介して微生物を認識し,ディフェンシンなどさまざまな抗菌ペプチドを産生して,病原微生物の侵入を防ぐと同時に常在する細菌の構成にも影響をあたえている.また,腸管の上皮には杯細胞(goblet細胞)が存在し,杯細胞からはたえず粘液が産生されている.大腸ではこの杯細胞のはたらきにより非常に厚い粘液層が形成される.細菌は粘液層の外層までは入り込むことができるが,上皮細胞の直上の粘液層の内層はムチンどうしが密に結合しているため入り込めず,それにより細菌が直接に上皮に触れることをさまたげ侵入を阻んでいる.
 消化管には非常にユニークな免疫細胞が多く存在している.上皮層には上皮間リンパ球(intraepithelial lymphocyte:IEL)という特殊なリンパ球が存在する.上皮間リンパ球はおもにCD8陽性T細胞であるが細胞傷害活性をもち,ウイルスなどの微生物に感染した上皮細胞にアポトーシスを誘導することにより感染の拡大を防いでいる.上皮層の下の粘膜固有層には免疫グロブリンA産生細胞やγδT細胞が特有の細胞として存在し,古くから研究されている.さらに最近,T細胞でもB細胞でもない自然免疫リンパ球サブセット(innate lymphoid cell:ILC)が消化管に多く存在することが報告されている.RORγtという転写因子を発現することを特徴とするグループ3 ILCとよばれるサブセットはインターロイキン22を高く産生し,消化管の上皮細胞からの抗菌ペプチドの産生を促進することにより粘膜のバリア機能を増強している.一方,グループ2 ILCとよばれるサブセットはインターロイキン5およびインターロイキン13を高く産生し,寄生虫に対する感染防御に重要な役割をはたしている.この2つのILCサブセットはともに消化管の粘膜に非常に多く存在している.
 消化管の粘膜にはCD4陽性T細胞も多く存在しているが,その多くはナイーブ型のT細胞ではなく分化型T細胞あるいはメモリー型T細胞である.そのなかには,インターロイキン17を高く産生することを特徴とするヘルパーT細胞であるTh17細胞や,免疫系の抑制において機能する制御性T細胞(Treg細胞)が多く含まれる.Th17細胞および制御性T細胞は感染防御にはたらくとともに,消化管の恒常性の維持において重要なはたらきをする.未解明の部分も多いが,消化管の粘膜はこれらさまざまな免疫細胞により特殊なバリア系を構築し,病原性微生物の侵入を防ぐと同時に食物や腸内細菌に対し免疫応答しないよう制御されている.
 腸内細菌は消化管免疫系に深い影響をあたえている.そうした影響は無菌マウスを用いた解析から明らかになっている.たとえば,無菌マウスではパイエル板,孤立リンパ小節,腸間膜リンパ節が非常に小さく,脾臓のB細胞領域およびT細胞領域の形成が不十分である.さらに,全身においてCD4陽性T細胞に対する応答がTh2細胞に対する応答にかたよっており,血中の免疫グロブリンEの濃度もSPF(specific-pathogen-free,特定の有害な病原体をもたない)環境において飼育したマウスと比べ有意に高く,すなわち,アレルギーを起こしやすい状態になっていることが示されている.また,無菌マウスの消化管の上皮は外的なストレスに対し脆弱であり,デキストラン硫酸による腸炎の誘導に対し感受性が高い.また,のちにそれぞれ述べる免疫グロブリンA産生細胞,Th17細胞,制御性T細胞は,いずれも,無菌マウスにおいて減少している.しかし,これら一連の異常は,無菌マウスに腸内細菌を投与する,あるいは,SPF環境において数週間にわたり飼育することにより正常に回復する1)

2.腸内細菌と免疫グロブリンA産生細胞

 免疫グロブリンA産生細胞は消化管の粘膜に特有の細胞として古くから研究されている免疫細胞である.腸管の免疫グロブリンA産生細胞は主としてパイエル板における胚中心(germinal center)という高度に組織化された構造において,B細胞が増殖,クラススイッチ,体細胞超変異という過程をへることにより生み出される.そして,この過程にはT細胞のはたらきが必須である.T細胞の補助をうけ免疫グロブリンA陽性となったB細胞は,パイエル板から離れ大循環をへてふたたび粘膜固有層にもどってくる.これは,免疫グロブリンA陽性となったB細胞は同時にインテグリンα4β7も発現するようになるが,そのリガンドであるMAdCAM1が消化管の粘膜固有層の血管内皮細胞に発現しているためである.粘膜固有層にホーミングした免疫グロブリンA陽性B細胞は,さらに形質細胞へと分化して免疫グロブリンA二量体を産生するようになる.免疫グロブリンA二量体は上皮細胞の基底膜に発現しているポリ免疫グロブリン受容体と結合し,トランスサイトーシスにより基底側から管腔側へと輸送される.一方,粘膜では孤立リンパ小節や粘膜固有層においてT細胞に“非依存的な”クラススイッチも活発に起こっていることが知られている.しかし,このT細胞非依存性クラススイッチにより生み出される免疫グロブリンAは,自然免疫における迅速な応答において重要であるが,T細胞に依存性のクラススイッチにより産生された免疫グロブリンAと比べ親和性は低い.
 免疫グロブリンA産生細胞は無菌マウスにおいてその数が顕著に減少している.すなわち,腸内細菌の存在がその分化に必須であることが明らかになっている.逆に,免疫グロブリンAの産生に障害のあるAIDノックアウトマウスにおいては腸内細菌の細菌量が異常に増加することも報告されている.また,免疫抑制タンパク質PD-1を欠損したマウスでは,濾胞ヘルパーT細胞の異常な増加により淘汰されるべき不完全なB細胞が残存し親和性の低下した免疫グロブリンAが増加して,腸内フローラの細菌種の構成の異常であるdysbiosisの生じることも報告されている.このように,免疫グロブリンAと腸内細菌は,腸内細菌と消化管免疫系とが互いに影響しあいながら恒常性を保っていることを示す好例となっている.
 腸内細菌のなかでも,セグメント細菌(segmented filamentous bacteria:SFB)はマウスやラットの小腸において免疫グロブリンA産生細胞の数や腸管の管腔における免疫グロブリンAの濃度を強力に上昇させることが知られている3).実際に,無菌マウスにセグメント細菌を単独で定着させることにより,小腸の管腔における免疫グロブリンAの濃度は顕著に上昇する.一方,大腸における免疫グロブリンAの産生にはクロストリジアに属する別の細菌種が促進的にはたらくことが知られている.セグメント細菌は小腸に定着し,クロストリジアに属する別の細菌種は大腸に定着するため,それぞれが小腸あるいは大腸という部位に特異的に免疫グロブリンAの産生促進にかかわると考えられる.セグメント細菌やクロストリジアに属する細菌による免疫グロブリンAの産生促進の分子機構はいまのところわかっていない.

3.腸内細菌とTh17細胞

 消化管の粘膜には分化型あるいはメモリー型のCD4陽性T細胞が恒常的に多く存在する.そのなかには,インターロイキン17Aを高く産生することを特徴とすることからTh17細胞とよばれるCD4陽性T細胞のサブセットが非常に多く含まれる.Th17細胞の産生するインターロイキン17A,インターロイキン17F,インターロイキン22などのサイトカインは,上皮細胞にその受容体が発現している.上皮細胞を活性化し,抗菌ペプチドの産生を促進し,消化管の粘膜のバリア機能を高める.このため,Th17細胞は肺炎桿菌,病原性大腸菌,黄色ブドウ球菌などの病原細菌や,カンジダ菌などの真菌に対する感染防御において必須の役割をはたす.たとえば,インターロイキン17Aおよびインターロイキン17Fを欠損したマウスは黄色ブドウ球菌に日和見感染を起こす.一方で,Th17細胞の産生するサイトカインは好中球の集積と強い炎症をひき起こすことも知られている.Th17細胞の過剰な活性化は多発性硬化症,関節リウマチ,慢性炎症性腸疾患など自己免疫疾患あるいは自己炎症性疾患の発症や増悪につながる.したがって,Th17細胞の数を人工的に増加させることができれば感染症の治療につながり,逆に,その数を減少させることができれば自己免疫疾患の治療につながると考えられる.
 ナイーブCD4陽性T細胞からTh17細胞への分化には,インターロイキン6およびTGFβという2つのサイトカインが重要であることが知られている.インターロイキン6とTGFβはTh17細胞の分化において必須の転写因子であるRORγtの発現を誘導する.じつは,TGFβによる刺激だけでもRORγtの発現は誘導される.しかしながら,この場合には同時に制御性T細胞の分化にかかわる転写因子Foxp3も誘導され,このFoxp3がRORγtと結合しその活性を抑制するため,Th17細胞への分化は抑制されてしまう.そこにインターロイキン6がくわわることによりSTAT3が活性化され,STAT3によりFoxp3の発現が抑制されて,RORγtの発現量とその活性が上昇することによりTh17細胞へと分化すると考えられている.インターロイキン6とTGFβにより分化の誘導されたTh17細胞は,そのままでは炎症を起こすのに十分な機能を備えていない.インターロイキン6およびTGFβによる刺激をうけているあいだ,Th17細胞はインターロイキン23受容体を発現するようになる.そして,インターロイキン23の刺激をうけてはじめて,Th17細胞は炎症を起こすのに十分となり病原性微生物の排除にはたらく.しかし,あまりに過剰なインターロイキン23の刺激はTh17細胞を病的な細胞へと分化させてしまうことも知られている.実際に,インターロイキン23受容体遺伝子座における1塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)と炎症性腸疾患とに強い相関のあることが報告されている.炎症性サイトカインであるインターロイキン1βやTNFαもTh17細胞の分化に対し促進的にはたらくことが知られており,Th17細胞は,炎症により分化が促進され,炎症によりさらに炎症性となる細胞といえる.
 Th17細胞において特筆すべきことは,消化管の粘膜固有層にもっとも多く存在することである.逆にいうと,全身の臓器において恒常的にTh17細胞の存在するのは消化管の粘膜固有層だけである.特定の有害な病原体をもたないSPF環境において飼育している健康なマウスにおいて,Th17細胞は小腸の粘膜固有層にとくに多く存在する.Th17細胞は生後すぐのマウスにはほとんど存在しないが,生育するにつれ増加する.無菌マウスあるいは抗生物質を投与したマウスにおいては腸管の粘膜固有層に存在するTh17細胞の数は激減している.これらのことから,Th17細胞の分化は腸内フローラに由来するなんらかの分子により誘導されているものと考えられる.実際に,細菌に由来するフラジェリンあるいは非メチル化DNAがToll様受容体であるTLR5とTLR9をそれぞれ活性化し,Th17細胞の分化を促進するという報告がある.また一方で,腸内細菌に由来するATPによりTh17細胞の分化が誘導されることも知られている4)
 SPF環境において飼育した同じマウスでも,飼育した施設によりTh17細胞の数は異なる.たとえば,米国Taconic Farms社から購入したSPFマウスの小腸には多数のTh17細胞が確認できるが,米国Jackson Laboratory社から購入したSPFマウスには少数しか存在しない.このことは,どのような細菌種であっても腸内細菌が存在すればいいわけではなく,特定の細菌種がTh17細胞の分化を特異的に誘導していることを示している.そして,Taconic Farms社のマウスの腸管にはそのような細菌種が定着しており,Jackson Laboratory社のマウスには定着していないと考えられる.Taconic Farms社のマウスとJackson Laboratory社のマウスの腸内細菌を比較したところ,Taconic Farms社のマウスにはセグメント細菌が存在しJackson Laboratory社のマウスには存在しないことが明らかになった5).さらに,セグメント細菌のみを単独で腸管に定着させたマウスの小腸において多数のTh17細胞が確認され,Jackson Laboratory社のマウスにセグメント細菌を投与するとTaconic Farms社のマウスと同様にTh17細胞の分化が誘導された.以上から,セグメント細菌はTh17細胞の分化を強力に誘導する細菌であり,Jackson Laboratory社のマウスにおいて小腸にTh17細胞が少ないのはセグメント細菌が存在していないためと考えられた.
 セグメント細菌は分節した形態をもつ繊維状の腸内細菌であり,その名称はこの特徴的な形態に由来する.小腸の上皮細胞に強く接着して生存することを特徴としており,この接着により,免疫グロブリンA産生細胞やTh17細胞などの宿主の免疫細胞に影響をあたえていると考えられる.セグメント細菌は哺乳類,鳥類,爬虫類,魚類,昆虫など多くの生物の腸管に存在している.マウスおよびラットに定着しているセグメント細菌のゲノムが解読され,その結果,セグメント細菌はクロストリジアに属すると考えられている6).ゲノムサイズは小さく,生存あるいは増殖に必要な代謝経路の多くを宿主に依存していると考えられる.フラジェリンやいくつかの接着分子をもち,それらにより小腸の上皮細胞に接着すると考えられる.この接着が血清アミロイドAなど炎症性タンパク質の産生を誘導し,それがTh17細胞の分化につながると想定されている.
 セグメント細菌によるTh17細胞の分化の誘導は,抗菌ペプチドの産生促進など消化管の粘膜のバリア機能を高めることにつながり,宿主において病原性細菌の感染に対する抵抗性を高める.このため,セグメント細菌が消化管に多く定着したマウスは,たとえば,病原性細菌Citrobacter rodentiumの感染に対し高い抵抗性を示す.すなわち,セグメント細菌によるTh17細胞の分化は,宿主にとり“感染防御”という文脈では有益であると考えられる.しかし一方で,たとえば,遺伝的に自己免疫疾患の素因があるとセグメント細菌によるTh17細胞の分化は自己免疫の発症につながる可能性がある.実際に,関節炎モデルマウスであるKBxNマウスは無菌の環境では関節炎が抑制され,セグメント細菌を投与するとTh17細胞の分化を介する強力な関節炎が誘導される7).また,多発性硬化症の実験マウスモデルにおいてもセグメント細菌の定着が症状の悪化につながることが報告されている.すなわち,“自己免疫あるいは自己炎症”という文脈においてはセグメント細菌によるTh17細胞の分化は宿主にとり有害であることになる.セグメント細菌は多くの生物の腸管に存在するが,ヒトでもその存在が示唆されている8).セグメント細菌そのもの,あるいは,セグメント細菌と同等の機能をもつヒトの腸内細菌を同定し,さらに,それらを制御する方法を開発できれば,感染症や自己免疫疾患の新たな治療法となる可能性がある.

4.腸内細菌と制御性T細胞

 制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)はCD4陽性T細胞のサブセットのひとつであり,転写因子Foxp3を発現することを特徴とする.自己抗原に対する免疫不応答性の維持や,宿主にとり有害な過剰な免疫応答の抑制にはたらく必須の細胞である.Foxp3を欠損したマウスには制御性T細胞の分化の異常により致死性の多臓器障害(炎症)が観察されるが,制御性T細胞の移入によりその症状は抑制される.また,ヒトにおいても,Foxp3遺伝子座の変異が先天性IPEX症候群とよばれる全身性の自己免疫疾患の原因となることが知られている.制御性T細胞は全身のすべての器官に存在し,その割合はCD4陽性T細胞のおよそ10%をしめる.それに対し,消化管の粘膜固有層においては制御性T細胞の割合が非常に高く,CD4陽性T細胞の30%以上に達する.消化管に存在する制御性T細胞は食事の成分に対する免疫寛容や腸内細菌に対する免疫学的な不応答などにかかわると想定されている.無菌マウスにおいて大腸に存在する制御性T細胞の数が顕著に減少していることから,大腸における制御性T細胞の分化や増殖に腸内細菌の存在が大きく寄与していると考えられる.制御性T細胞には,胸腺においてただちにFoxp3陽性細胞として分化した,いわゆる胸腺制御性T細胞(tTreg細胞)と,いったん通常のCD4陽性T細胞として末梢に存在したのちFoxp3陽性となった,いわゆる末梢制御性T細胞(pTreg細胞)の2種類がある.大腸の制御性T細胞には,腸内細菌により分化の誘導された末梢制御性T細胞が多く含まれていると考えられている.胸腺制御性T細胞と末梢制御性T細胞とではT細胞受容体のレパトア,すなわち,認識できる抗原が異なっている.したがって,腸管において末梢制御性T細胞の分化が誘導されるのは,胸腺制御性T細胞だけではカバーしきれないような抗原に対しても免疫応答を制御できるように,生体が獲得した重要な分子機構であると考えられる9)
 特定の有害な病原体をもたないSPFマウスにバンコマイシンを投与すると制御性T細胞の数は減少する.また,SPFマウスの便をクロロホルムにより処理して無菌マウスに投与すると制御性T細胞の強力な分化の誘導が観察されることから10),バンコマイシン感受性かつクロロホルム処理耐性の腸内細菌が,制御性T細胞の分化にかかわる細菌種であると考えられる.腸内細菌のなかでそうした特徴をもつのはクロストリジアに属する細菌である.実際に,マウスの消化管から単離された46株のClostridium属細菌を無菌マウスに経口投与すると,制御性T細胞のきわめて強力な分化の誘導が観察される10).一方,Lactobacillus属細菌やBacteroides属細菌などの投与ではそのような制御性T細胞の増加は認められない.したがって,腸内細菌のなかでクロストリジアに属する細菌が制御性T細胞の分化に非常に重要な役割をはたしていると考えられる.46株のClostridium属細菌は大腸に存在する制御性T細胞におけるインターロイキン10の産生やCTLA4の発現も亢進させる.インターロイキン10は炎症抑制性のサイトカインであり,インターロイキン10あるいはインターロイキン10受容体の欠損により腸炎を発症することが知られている.また,CTLA4は活性化したT細胞の抑制にはたらく受容体であり,CTLA4を欠損したマウスは全身性の自己免疫疾患を発症することが報告されている.したがって,46株のClostridium属細菌は大腸において制御性T細胞の数を増加させると同時に,その機能も亢進させるといえる.
 マウスの消化管に由来する46株のClostridium属細菌と同等の制御性T細胞の分化の誘導能をもつ細菌は,ヒトの消化管にも存在する11).日本人成人男性ボランティアに由来する便の試料を無菌マウスに投与すると,制御性T細胞の分化の誘導が観察される.この便をクロロホルムにより処理して無菌マウスに投与すると,さらに強力な制御性T細胞の分化の誘導が観察される11).制御性T細胞の分化したマウスの回盲部の内容物を再度クロロホルム処理したのち,2万倍に希釈して別の無菌マウスに投与しても,同様に制御性T細胞の分化の誘導が観察される.この過程をくり返して制御性T細胞の分化の誘導能をもつ細菌を濃縮したマウスの回盲部の内容物を培養することで得られた,17株のクロストリジアに属する細菌にも,やはり制御性T細胞の分化の誘導能があった.マウスに由来する46株のClostridium属細菌も,ヒトの便から単離された17株のクロストリジアに属する細菌も,クロストリジアクラスターのうち,クラスターXIVa,クラスターIV,クラスターXVIIIに属している10,11).ヒトに常在する細菌でクロストリジアクラスターIVに属するFaecalibacterium prausnitziiは,in vitroの培養系において,ヒトの末梢血の単核球からインターロイキン10の産生を促進することが示されている.炎症性腸疾患の患者やアトピー性皮膚炎の患者においては,腸内フローラの全体にしめるクロストリジアクラスターIVおよびクロストリジアクラスターXIVaの割合が減少していることが報告されている12).クロストリジアに属する細菌が腸管に豊富に存在するマウスは大腸において制御性T細胞が多く,かつ,デキストラン硫酸やオキサゾロンにより誘発される腸炎に対し抵抗性を示す.また,全身性の免疫グロブリンEへの応答およびアレルギー応答も抑制された状態にある.これらはいずれも,クロストリジアに属する細菌による制御性T細胞の分化の誘導がヒトの免疫疾患の制御に役だつ可能性を示唆しており,すなわち,クロストリジアに属する細菌の補充療法がアレルギーや自己免疫疾患の治療法となりうると考えられる.
 クロストリジアに属する細菌はおもに盲腸および近位結腸の上皮細胞の近傍に層を形成するようにして定着する.こうした定着の様態から,クロストリジアに属する細菌は上皮細胞に強い影響をあたえていると考えられる.実際に,マウスに由来する46株のClostridium属細菌のみを腸管に定着させたマウスの大腸の上皮細胞を単離しその遺伝子発現を網羅的に解析すると,TGFβなど制御性T細胞の増殖や分化を促進するタンパク質をコードする遺伝子の発現が増加している.また,ヒトの便から単離された17株のクロストリジアに属する細菌のみを腸管に定着させたマウスの回盲部の内容物の水抽出物を腸の上皮細胞にくわえると,TGFβの産生の誘導が観察される.したがって,クロストリジアに属する細菌は腸管の上皮細胞を刺激し,大腸において制御性T細胞の分化を誘導していると考えられる.

おわりに

 消化管には非常にユニークな免疫細胞が多く存在し(未同定の細胞サブセットもいまだ多く存在すると考えられる),それら免疫細胞の分化や機能は腸内細菌により深い影響をうけている.腸内フローラを形成する細菌は個々が異なる様式によりそれら免疫細胞に影響をあたえていると考えられる.そのバランスの異常が疾患につながると想定されており(図1),いくつかの疾患においては腸内フローラの改変が根本治療となりうるため研究が進んでいる.腸内フローラの改変のための生きた細菌の補充療法は古くから行われており,プロバイオティクスとして普及している.しかし,これまで用いられてきたプロバイオティクスは生体への影響を指標に単離されてきたわけではなく,単に培養が簡単であったり酸に耐性であったりという理由により選択されたものが多い.最近では,健常者の便の移植が疾患を非常に効果的に治療できることが示されているが,便そのものの投与は未知のウイルスの感染など危険をともなうため,それに代わる細菌種を手に入れる必要がある.ここで紹介したセグメント細菌やクロストリジアに属する細菌は,それぞれ突出した機能をもっている.このような,消化管に常在していながら宿主のもつ細胞の分化や機能をある方向へ人為的に変えることのできる細菌種が,次世代のプロバイオティクスになると考えられる13).また,腸内フローラの細菌種の構成の異常であるdysbiosisの改善は,単独の細菌種の投与では困難であると考えられる.宿主への影響の把握できた複数の細菌種の組合せが,今後,新しいプロバイオティックスとして開発されていくものと考えられる.

文 献

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著者プロフィール

本田 賢也(Kenya Honda)
略歴:2001年 京都大学大学院医学研究科博士課程 修了,同年 東京大学大学院医学系研究科 助手,2007年 大阪大学大学院医学系研究科 准教授,2009年 東京大学大学院医学系研究科 准教授を経て,理化学研究所統合生命医科学研究センター チームリーダー.
研究テーマ:腸内細菌と消化管免疫系.
関心事:単離した細菌株の臨床への応用.
研究室URL:http://www.riken.jp/research/labs/ims/gut_homeost/

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