ライフサイエンス 領域融合レビュー

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Computational Ethology:バイオインフォマティクスと動物行動学の融合

2015年2月20日

福永津嵩・岩崎 渉
(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 生物化学講座バイオインフォマティクス研究室)
email:福永津嵩岩崎 渉

領域融合レビュー, 4, e003 (2015) DOI: 10.7875/leading.author.4.e003
Tsukasa Fukunaga & Wataru Iwasaki: Computational ethology: integration of bioinformatics and ethology.

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要 約

 動物行動学は,動物が示す行動を総合的に理解することをめざす学問分野である.その新たな周辺領域として,いま,動物の行動に関するデータを大規模かつ高解像度に取得し,情報科学的な手法を活用して行動の特徴や群れの社会構造などにせまる“computational ethology”が現われつつある.このレビューでは,とくに動画解析による行動の定量化に焦点をあてながらこの領域の現状について解説するとともに,バイオインフォマティクスと動物行動学の融合の将来について展望する.

はじめに

 動物が示す多様な行動は古来よりわれわれの広い関心をひいてきた.たとえば,アリストテレスは早くも紀元前4世紀に,ていねいな観察により得られた動物の行動に関する幅広い知見を著書『動物誌』に記している.以後,動物行動学(ethology)の分野においては,膨大な博物学的な研究が今日まで脈々と積み重ねられてきた.一方で,現代生物学の基礎が確立した20世紀には,動物行動学に実験科学的な手法が本格的に導入されるようになった.このような実験科学的な動物行動学の先駆者としてティンバーゲン,ローレンツ,フォン・フリッシュがおり,それぞれ,イトヨの本能行動と鍵刺激,ハイイロガンの刷り込み現象,ミツバチの8の字ダンスの研究により,1973年にノーベル医学生理学賞を受賞している.そして,ゲノムデータに代表される大規模なデータが生物学にもたらされつつあるいま,動物行動学にも新たに情報科学的な手法が導入されつつある1).その結果,現われつつあるのが“computational ethology”とよばれる領域である2).このレビューでは,とくに動画解析による動物の行動の定量化に焦点をあて,この領域の現状と展望について論じる.

1.動物の行動の定量化

 行動とは,“動物の個体が外界に対して示す,その個体の生活になんらかの意味が裏づけられているような動き”(岩波生物学辞典 第5版)をさす幅広い概念である.このレビューでも“動物が位置を変えること”から“それらの動きのパターンのこと”あるいは“求愛などの動物行動学的な意味をもつ複雑なパターンの組合せのこと”など,幅広いスケールの動きをさしてやや抽象的に行動という言葉を用いる.
 これらの動物の行動を理論や仮説にもとづいて観察し検証していくためには,まず行動を定量化し,そののち統計学的な解析を行うことが必要になる.行動を定量化するうえでもっとも容易であり実際によく用いられている方法が,特定の行動を行った回数や時間を人手などにより計測する“カウントによる定量化”である.ところが,このカウントによる定量化には2つの本質的な問題がある.
 1つ目の問題は,情報が欠落することである(図1a).具体的な例として,2つの個体のあいだの相互作用を観察することを考えよう.単純に個体どうしが一定の距離に近づいた回数をカウントした場合には,たとえば,“どの角度から近寄ったか”という個体間のコミュニケーションに大きな意味をもつと考えられる情報が失われてしまう.近寄った角度ごとに分けてカウントすることも可能だが,その場合も,どのような相対速度で近寄ったか,あるいは,その際に個体は羽を広げていたか,などの情報は失われてしまう.情報の欠落をさけるため“場合分け”を増やせば増やすほど,カウントの際にヒューマンエラーが発生しやすくなるほか,統計学的な解析に十分な量のデータを得るためには長い時間の観察が必要になり,カウントが困難になるというジレンマにおちいる.

figure1

 2つ目の問題は,観察者の主観が入り込むことである(図1b).たとえばさきに述べたケースでは,どのような場合分けを採用するかについて,観察者のなんらかの主観が入り込むことになる.さらに,求愛行動や攻撃行動など複雑な行動をカウントする場合は,何をもってそれらの行動を行ったとするか,基準に統一性をもたせることが困難になりやすい.とりわけ,微細な動きがそれら複雑な行動を構成している場合には,観察者が変わるとカウントの結果も大きく変わってしまうことが少なくない.
 これに対し,ビデオカメラを用いて動画を撮影し,コンピューターを使った解析により行動を定量化するアプローチが“動画解析による定量化”である.動画解析による定量化では,カウントによる定量化と異なり,動物の動きの速さや向きなど“生の”情報をなるべく保持したまま,さまざまなパラメーターを定量することが可能になる.必要ならば,動画データにもどって再解析を行うことにより新たなパラメーターを定量することや,より長時間の動画データを取得しなおして追加の解析を行うことも比較的容易である.また,データ解析のハイスループット化により大規模な行動データを解析できるようになることから,多様な条件における行動を比較することも可能になる.さらには,同じ手法あるいはソフトウェアを用いれば異なる研究者が解析を行っても統一性のある結果が得られるという意味で客観性が担保されることにより,研究成果がより効果的に蓄積されるという利点も小さくない.
 なお,ここでは扱わないが,動画解析による定量化のほか,“データロガーによる定量化”も動物行動学における重要な研究手段になりつつある.“バイオロギングサイエンス”ともよばれるこの領域では,動物にGPSや深度計といったデータロガー(計測装置)を取り付けたのち自由に行動させ,そののち,データロガーを回収することにより行動の定量的なデータを得る3).データロガーによる定量化のすぐれた点のひとつは,深海や上空など,人間が観測することや動画を撮影することが困難な環境における行動を調べられることである.また,多様な種類のデータロガーを使うことにより,気温や水温など行動に関連するさまざまな情報を得ることも可能である.反面,動物にデータロガーを取り付ける必要のあることからモデル生物を含む小型の動物への適用に限界があるほか,動物の細かい動きに関するデータは得にくいといった特徴がある.

2.行動の軌跡のトラッキング

 動画解析により大規模かつ高解像度な行動データを取得し,種々の高次の解析へとつなげていくうえでは,それぞれの段階において適切な情報科学的な手法を用いることが鍵をにぎっている.生物学と情報科学の境界分野であるバイオインフォマティクス分野ではゲノムデータやオミクスデータをはじめとする分子レベルのデータの解析が中心的な位置をしめているが,近年,生物の画像データや動画データの情報解析を行う“バイオイメージインフォマティクス”とよばれる領域が注目をあつめている4).現在のところ,バイオイメージインフォマティクスにおいては顕微鏡に由来するデータの解析が多くとりあげられる傾向にあるが,動画データから生物の表現型にかかわる情報を取り出すという目的の面で,また,使われる解析技術の面でも,computational ethologyと多くの関連がある.ここで扱う“トラッキング”も,細胞や核の解析なども含め,バイオイメージインフォマティクスにおいてよくとりあげられている5)
 トラッキングとは,動画データを構成する多数の静止画像に含まれる個体を認識し,おのおのの個体の位置や向きを時系列にそって定量化し行動の軌跡を得ることをさし,computational ethologyにおいてもっとも基本的かつ重要な要素技術である6).トラッキングの最初のステップでは,動画におけるおのおのの画像から動物の部分のみを抜き出すため,たとえば,動物を飼育しているケージ,チャンバー,水槽など,“背景”となる不要な部分を取り除くことが一般的である.基本的な画像処理の手法としては,しきい値による2値化処理や背景差分法がよく用いられており,いずれも,動物の部分と背景の色や明るさに差のあることを利用した手法である7).もし,背景の色や明るさが比較的均一であり動物の部分と大きな差があれば,色や明るさに一定のしきい値を設けるだけで動物の部分を抜き出すことが可能である(しきい値による2値化処理).また,あらかじめ背景のみの画像を撮影しておき,動画におけるおのおのの画像と背景の画像との差分をとることにより動物の部分を抜き出す方法もよく使われる(背景差分法).実際には,これら単純な手法により動物の部分を抜き出すことができることは少なく,空間フィルタリングによるノイズの除去をはじめとする,さまざまな画像処理における工夫が必要になることが多い.しかしながら,飼育容器をピクセルレベルで動かないようきちんと固定する,飼育容器の影や光の反射などに動物が重なって見えなくなることがないようにするなど,動画撮影の環境を整えることにより動物の部分の抜き出しのむずかしさを事前にかなり減らすことも可能である(もっとも,たとえば野外などで動画を撮影する場合には,とることのできる対策がかぎられることも多い).とりわけ,動画を撮影する研究者と動画を解析する研究者が異なる場合には,動画の撮影のまえに撮影の環境についてよく相談しておくことが肝要である.
 おのおのの画像から動物の部分を抜き出すステップにつづくのは,それらを時系列にそってつなぎあわせて行動の軌跡を得るステップである.撮影の対象になる動物が1個体のみの場合は,抜き出された動物の部分をほぼそのままつなぎあわせることにより行動の軌跡を得ることができる.一方,複数の個体をトラッキングする場合には,ある時刻における複数の個体の位置とつぎの時刻における複数の個体の位置をどのように対応づけるかという問題が発生する.もちろん,単純な解決法として,連続する画像のあいだではおのおのの個体の位置は大きく変化しないと仮定し,おのおのの個体の移動距離の総和がもっとも小さくなるように個体どうしを対応づけることは基本といえる.しかし,動画撮影の条件によるものの,実際の動画においては異なる個体どうしが大きく接近したり重なったりすることが頻繁に生じる.そのため,時系列にそってつなぎあわせる過程で2つの個体の行動の軌跡が入れ替わってしまう“swapping of identity”や,1つの個体の行動の軌跡が別の個体の行動の軌跡に合流してしまう(とともに,1つの個体の行動の軌跡が失われる)“loss of identity”といったエラーをさけることはできない.この問題は“occlusion問題”(occlusionは,ふさぐ,邪魔をするといった意味)とよばれ,いまだ解決のむずかしい問題である(図2).

figure2

 複数の個体のトラッキングにおけるocclusion問題の解決には,動画撮影の手法の工夫と動画解析の手法の工夫の大きく2つの方向性がある.動画撮影の手法の工夫のうちもっとも根本的なものは,おのおのの個体に対し独自の色や模様の目印を物理的につけてしまう手法である8,9).この手法はかなり高い精度でocclusion問題をふせぐことができる一方で,物理的に干渉することが個体の行動に影響をあたえうるという本質的な危険をともなう.また,個体の数がとくに多い場合には互いに識別の可能な十分な種類の目印が必要になることにも注意が必要である.ほかの手法としては,複数のビデオカメラを利用して3次元的にトラッキングを行うものがある10).この手法は,ひとつの方向から撮影したときには個体どうしが重なる場合でも別の方向から撮影したときには重ならないことを利用するもので,3次元的な行動データが得られるという独自の利点もある.この手法も高い精度でocclusion問題をふせぐことができるが,ビデオカメラのあいだで正確に時間の同期をとることが必要であるほか,動物の行動範囲の全体を撮影することのできる複数のビデオカメラの位置を設定することが必要になる(行動範囲になんらかの器具をおいたりする必要のある場合などでは,むずかしいことがある).また,複数のビデオカメラから得られた動画データの統合的な解析や解釈には,一般に,より高度な情報解析技術が必要になる6)
 動画解析の手法の工夫によるocclusion問題の解決法について,単純な工夫としては,個体はほかの個体との接近の前後で等速直線運動しているとの仮定のもと,軌跡がより等速直線運動に近くなるよう画像のあいだで個体を対応づけするものがある11).残念ながら,動物はほかの個体と接近する際にしばしば等速直線運動とは大きく離れた動きをみせるため,この手法はそれほど高い精度をもたないことが知られている.これに対し,筆者らは,混合正規分布とよばれる確率モデルを利用することによりocclusion問題をふせぐトラッキング手法GroupTrackerを開発した12)図3).この手法では,ひとつの2次元正規分布を用いてひとつの個体を表現し,その混合分布を用いて複数の個体を表現する.これまでは,その解法のもつ数学的な性質のため,個体どうしが大きく接近したり重なったりする場合にはトラッキングに混合正規分布を用いることはできなかったが,個体の大きさに対応するパラメーターである混合正規分布の分散共分散行列の固有値を固定するという数理的な工夫により,これが可能となった.しかしながら,この手法でもocclusion問題のうち2つの個体の行動の軌跡が入れ替わってしまうswapping of identityについては完全にはふせぐことができておらず,今後の課題になっている.また,まったく異なる発想によりocclusion問題を解決しようとしているのがidTrackerである13).その発想は,さきに述べたおのおのの個体に独自の目印をつけるというアプローチをある意味で発展させたもので,おのおのの個体がもともともっている,人目では容易に識別のできないような微妙な模様のパターンなどの違いを使って識別するというものである.実際に,個体を十分に高い解像度でとらえられる条件において動画を撮影することにより,マウス,ショウジョウバエ,ゼブラフィッシュなどのトラッキングにおいてocclusion問題を高精度に解決することができたとの報告がある.この手法は,たとえば,黒色の色素胞を突然変異により失ったメダカであるヒメダカのように体表の模様のはっきりしない動物のトラッキングに適用することはむずかしいと予想されるが,おのおのの個体の行動のクセなども利用することにより,より幅広い対象に適用の可能な手法へと拡張することも可能と考えられる.

figure3

 行動の軌跡を得るステップにひきつづくトラッキングの最後のステップが,おのおのの個体の形状に関する時系列的な情報を動画データから取得するステップである(このステップは,行動の軌跡を得るステップと同時に行われることもある).もちろん,最終的に行おうとしている解析に行動の軌跡のみが必要ならば,このステップは省略が可能である.また一方で,形状に関する情報を取得する場合でも,個体の向きだけが必要なのか,羽の角度や尻尾のかたちの情報まで取得する必要があるのかなどにより解析は異なる.くわしい情報を正確に取得しようとすればするほど高度な情報解析技術が必要になり,かつ,動物により形状は大きく異なることから動物ごとに個別のトラッキングソフトウェアを開発する必要がある.現在は,線虫14),ショウジョウバエ15,16),マウス17),ゼブラフィッシュなどの小型魚類18) といったモデル生物を対象にソフトウェアが開発されている.
 トラッキングにかかる計算時間について付言しておく.高解像度の動画解析を行ったり複雑なアルゴリズムを用いるソフトウェアを使ったりする場合には,トラッキングに撮影時間より長い計算時間がかかることが多い.こういった場合,一般には,動画を撮影したのちにトラッキングを行うことになる.とくに計算時間が長い場合には,スーパーコンピューターなどを用いて並列的に動画解析を行うなど計算時間を短縮するための工夫が必要になる.一方で,動画撮影と並行してトラッキングを行い,行動の異常をリアルタイムで検知したり動物に干渉をくわえたりといった用途に用いたい場合には,撮影時間より短い計算時間でトラッキングを行うリアルタイムトラッキングが要件になる.たとえば,FlyMADでは,赤外レーザーとリアルタイムトラッキングを組み合わせることにより,自由に活動しているショウジョウバエに対し,個体に特異的にレーザーを照射することを可能にしている19)

3.行動アノテーション解析,行動モチーフ抽出,ソーシャルネットワーク解析

 トラッキングにひきつづく下流の解析においては,動画データから行動に関するどのような情報を得たいのかに応じてきわめて幅広いデータ解析が行われる.おのおのの個体の速度や個体間の距離といった基本的なパラメーターをトラッキングデータから取得し統計解析を行うことで十分な場合もある一方で,データの大規模性を利用した,より高次の解析手法も開発されつつある.ここでは,このような高次の解析の例として,行動アノテーション解析,行動モチーフ抽出,ソーシャルネットワーク解析の3つを紹介する.これらはそれぞれ,教師あり学習,教師なし学習,複雑ネットワークとよばれる数理工学分野の技術を動物行動学に適用したものである.
 行動アノテーション解析とは,動物が時系列にそってどのような種類の行動をとったかを明らかにするため,行動を“歩く”“走る”“回る”などいくつかのカテゴリーに分類し,おのおのの時点での行動がどのカテゴリーに該当するかをアノテーションする(注釈づける)ものである(図4a).こうして得られた行動のカテゴリーの遷移図は,エソグラムとよばれる.短時間の動画データの場合にはこれらのアノテーションを人手で行うことも可能であるが,長時間の場合には困難になるため,教師あり学習を用いてアノテーションを自動化する研究がさかんに行われている15,16,20)

figure4

 教師あり学習とは,教師なし学習とともに,機械学習とよばれる技術の一種である.機械学習とは,データの特徴やその背後にある法則あるいは関係性などをコンピューターを使って抽出する技術であり21),バイオインフォマティクス分野においてはゲノム配列解析やタンパク質構造解析などの要素技術として幅広く用いられているほか,経済学や音声認識などの分野でも用いられている.このうち教師あり学習では,入力値と目標値の多数の組からなる教師データ(トレーニングデータ)があたえられ,その教師データをもとに,入力値があたえられたときに目標値を予測する式を導く(学習する).こうして導かれた式を用いることにより,入力値のみがあたえられ目標値が未知であるデータについても目標値を予測することが可能になる.
 行動アノテーション解析における教師あり学習では,おのおのの個体の位置,速さ,向き,形状などのトラッキングデータが入力値になり,行動のカテゴリーが目標値になる.まず,小規模な動画データに対し専門家が人手でアノテーションを行い教師データを作成する.教師データに対し,サポートベクターマシンやランダムフォレストといった教師あり学習の手法を用いて,トラッキングデータからおのおのの時点で動物がとっている行動カテゴリーを予測する式を導く.この式を用いることにより,行動のカテゴリーがアノテーションされていない大規模な動画データに対してもコンピューターを用いて自動的にアノテーションを行い,エソグラムを作成することができる.動物行動学に行動アノテーション解析を用いるときの大きな利点のひとつは,行動のカテゴリーそれ自体は専門家が知識や経験にもとづいてあたえたものであるから,解析結果の解釈が比較的容易であるという点である.ただし,この点は欠点にも直結しうることに注意する必要がある.すなわち,未知の行動を行動アノテーション解析により発見することは,原理的にむずかしい.さらに,すでに述べたこととも大きく関連するが,人手による行動のアノテーションには主観の入り込む余地が存在する.実際に,複数の人間によるアノテーションの結果が一致しないことも少なくない20).教師データのアノテーションに主観が入り込めば,コンピューターが導いた式ではあっても,その客観性の評価には留保が必要になる.
 行動モチーフ抽出とは,教師なし学習の技術を用いて,トラッキングデータにおいて特徴的な一連のパターン(行動モチーフ)を発見するものである22-24)図4b).教師なし学習とは,その名のとおり,目標値がアノテーションされた教師データを用いない機械学習の手法である.目標値を予測する教師あり学習とは異なり,教師なし学習は,あたえられた入力値を分類したり,入力値のなかに特徴的なパターンを見い出したりすることができる.行動アノテーション解析と行動モチーフ抽出は,時系列にそって特徴的な行動を抽出するという点において類似した解析であるが,両者はその長所と短所が相補する関係にある.すなわち,行動モチーフ抽出ではトラッキングデータのなかに頻出する特徴的な動きのパターンなどを得ることができるが,それら行動モチーフのもつ動物行動学的な意味はただちには不明であることが少なくない.一方で,行動アノテーション解析に対し,行動モチーフ抽出は人間の主観の影響をうけにくく,未知の行動を検出することにたけた手法といえる.行動モチーフ抽出はまだ研究例も少なく,数理的な解析手法やデータの解釈などにおいて発展途上の部分も多いことから,今後の研究の発展が強く期待される.
 ソーシャルネットワーク解析とは,個体を頂点,その関係性を辺とするネットワークとして動物の集団を表現し,集団におけるおのおのの個体の位置や社会構造の特徴などを複雑ネットワークとよばれる手法を用いて解析するものである(図4c).複雑ネットワークでは,複数の物や人のあいだの関係性をネットワーク(数学的には,グラフとよぶ)により表現し,それらのネットワークの性質を数理的に解析することにより物や人のあいだの関係性がつくりだす複雑な構造のもつ性質をひもとく25).ネットワークは頂点と辺からなるが,物や人のあいだの関係性に向きを定義することが自然であったり有用であったりする場合には辺に向きを定義した“有向グラフ”を用い(辺は矢印により表現される),そうでない場合には辺に向きを定義しない“無向グラフ”を用いる(辺は線分により表現される).複雑ネットワークはバイオインフォマティクス分野では遺伝子共発現ネットワークやタンパク質相互作用ネットワークの解析などにおいて用いられているほか,インターネットにおけるウェブサイトのリンクの解析や学術論文の引用関係の解析など,やはり幅広い分野において用いられている.
 ソーシャルネットワーク解析それ自体は,大規模に行動データを計測できるようになる以前から動物行動学に用いられてきたものである.たとえば,初期の研究としては,イルカやグッピーを対象に標識再捕法などを利用して個体間の関係性をネットワークとして表現したものがある26,27).これらの研究では,同じ小集団に属している個体どうしに辺をひくことにより統計的に有意に辺のひかれる仲のよい個体どうしがいることを明らかにしたほか,より最近の研究としては,血縁や性別などの要素がネットワークにどのような影響をあたえるかを調べたものもある28).動画解析などにより得られつつある大規模かつ高解像度の行動データは,これらのソーシャルネットワーク解析に個体どうしの関係性の種類や集団構造の変化のダイナミクスといった要素をくわえることを可能にしつつある.たとえば,動物の群れ行動のトラッキングデータからは,群れが全体として速さや向きを変えたとき,おのおのの個体がどのタイミングで速さや向きを変えたかに関する情報を高解像度で得ることができる.さらに詳細に解析することにより,さきに速さや向きを変えた個体とそれに追随するかたちで速さや向きを変えた個体とのあいだに方向性をもった関係性を定義し,有向グラフを用いて個体間の行動の相互作用のソーシャルネットワーク解析を行うことができる29).また,長時間の時系列データを解析することにより,ソーシャルネットワークの時系列的な変化をとらえる研究も行われている.たとえば,巣のなかにおけるアリの行動を長時間にわたり撮影し,それぞれの働きアリがうけもつ育児,掃除,採餌といった仕事の分担がどのように変化していくか,さらに,その変化のパターンがアリの個体の集団のソーシャルネットワークとどのような関係にあるか,などに関する解析が行われている30)

おわりに

 このレビューでは,とくに動画解析による動物の行動の定量化に焦点をあてつつ,大規模かつ高解像度に行動を解析するために必要な技術について解説した.動画解析のなかでも基礎になるトラッキングについては比較的多くの研究が行われつつあるものの,とくに高次の行動解析についてはいまだ発展途上にあり,多様な行動に応じたさまざまな情報科学的な手法の開発が待たれる.また,トラッキングについても,多様な動物の多様な行動を解析するためにはさらなるソフトウェアの開発が必要である.動物行動学とバイオインフォマティクスのさらなる融合がcomputational ethologyの発展の鍵をにぎるゆえんである.
 動物行動学とバイオインフォマティクスの融合は,実際には共同研究のかたちで行われることが多いと考えられる.この際,いくら強調しても強調しすぎることのないのが,事前の十分な打ち合わせの重要性である.くり返しになるが,トラッキングを一例にとっても,どのような動画撮影の条件を準備するのか,さらには,動物の形状をどれほど詳細に取得するのかといった点が動画解析の難度に本質的に影響してくるため,解きたい問題に対する適切なアプローチについてよく相談しておく必要がある.もちろん,どのように論文化していくかなどにつきあらかじめ意識を統一しておくことが重要なことは,共同研究に関する一般論として論をまたない.
 定量化された行動を遺伝子や神経回路と関連づけることをめざして遺伝学や神経科学と組み合わせた研究は,今後も精力的に進められていくであろう22,23).いわゆる次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子解析の技術や,脳を1細胞の解像度で観察する技術など31,32),先端的な計測技術とcomputational ethologyを組み合わせていくことにより,おのおのの遺伝子や神経回路の機能を行動レベルで理解することができると考えられる.たとえば,光を利用してニューロンの活動を制御する光遺伝学とcomputational ethologyとを組み合わせることにより,ショウジョウバエにおけるニューロンと行動との関係について大規模な解析が行われている23).応用面においても,Huntington病など神経疾患のモデル生物における行動の解析や,行動を評価の指標とした大規模なドラッグスクリーニングなどが進みつつある33,34)
 生物学は今世紀に入り増大したゲノムデータやオミクスデータにより大きな影響をうけた.その一例が,データベースにより共有された網羅的なデータを新たな観点や新たな技術により解析することで発見を行う,いわゆるオープンサイエンス型の研究スタイルの出現である.データの共有と公開は,さらなる発見の余地のあるデータの死蔵化をふせぐとともに,新規参入の障壁を下げ技術やアイデアの評価と交換を容易にすることにより,情報解析技術のイノベーションを誘発する.現在,動画データベースについても,動物の発生の過程などに関してはすでにその整備が進行しつつある35).動画解析による動物の行動の定量化というアプローチのもつ別の可能性として,公開されたデータの再解析を行うという研究スタイルが一般的になり,研究コミュニティにより開発されたさまざまな動画解析技術が十分に活用されて,大規模な動画データから動物の行動に関する多くの知見が得られていくことを期待したい.

文 献

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著者プロフィール

福永 津嵩(Tsukasa Fukunaga)
略歴:東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程 在学中.
研究テーマ:大規模な動画データの解析からさぐるメダカの社会性行動.
抱負:高度な数理手法を用いて動物の“こころ”にせまりたい.

岩崎 渉(Wataru Iwasaki)
東京大学大学院理学系研究科 准教授.
研究室URL:http://iwasakilab.bi.s.u-tokyo.ac.jp/

© 2015 福永津嵩・岩崎 渉 Licensed under CC 表示 2.1 日本

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